ずいぶん前に読んだ本になります。
「そこにある山 人が一線を越えるとき」は、極地への探検を繰り返し行ってきた著者の角幡唯介さんの、おそらく実体験を基に自然と人間とから「事態」の説得を試みた、大変意欲的な作品だと思います。山や自然に関するトピックを中心に扱っていますが、思想や哲学、あるいはライフスタイルの変容を扱った書ではないでしょうか(そういう意味では、山や自然を中心に熱かった書と期待して読むと、なかなか難しい評価になるかもしれません。自分はこの書のアプローチも好きなのです。)。
説得というと、ネガティブにとらえやすいなイメージを持った単語だと思います。
一方、社会ではポジティブな意味で使うことも多いでしょう。
この書で角幡さんがいう「事態」もやはり、ポジティブとネガティブの両方のイメージを扱っていると思ったことから、説得の言葉を選ぶにいたりました。ただし、自分が感じた印象ではポジティブとかネガティブとか、一概に定義する意図で使われてないと思います。
むしろ、山や自然の中で経験した事態から、日常生活における事態、人生における事態の説明を、丁寧に試みたように思いました。
角幡さんはこの書で、「事態」から得られる経験が人生の固有度を増し、世間に流布するだれかの言葉ではなく「個人」の中で培われた内在的倫理(モラル)で行動し、世の中を見ることができるようになっていくことで人生そのものが自律的に動いていく(人生の自由度が増す)と言っています。
事態は外部から訪れることが多いものです。
現代の日本であれば、多くの場合は人間社会によることが多いです。
あるいは最近であれば、自然災害ということもあるでしょう。
その経験は常に固有のものです。
詳細については「そこにある山 人が一線を越えるとき」をぜひ読んでみてください。