ふらっと入ったモンベルの書籍コーナーで見つけた「幸せ」を背負って。
あっという間に読み切った一冊になりました。
野村さんの北海道宗谷岬から襟裳岬までをつらぬく山々を一筆書きする挑戦はNHKの番組になり、番組を見て知っていました。当然のことながら、映像をつくる上では編集が発生します。それがまた、映像に作品として価値をもたらすこともまちがいありません。番組の編集は書籍からの逸脱があったとは思えません。ディレクターを批判や否定をする意味ではないことを断った上で、映像編集に野村さんの意向が反映されることは考えにくいと考え、より意向が強く反映された媒体としての魅力が溢れていると感じました。
書籍や番組で野村さんがさんざん指摘していますが、襟裳岬側の日高山脈はヤブも多く、積雪期でなければ一筆で歩くことが難しいことは、以前から他の方の山行から知っていました。だからこそ、野村さんの試みが成功したことを知った時、単純にすごいなと感じたし、番組から届けられる野村さんの心情の動きには揺さぶられた。
一冊の本になり、野村さんによって紡がれた文章からは、番組以上に野村さんの心情の動きを、寄り添うように感じることができました。
二部構成のこの本は、第一部の行くと決めるまでの話。第二部では、日々の山行を通した山行そのもののハードさと、山行がもたらす野村さんの心が動く様子や、自分自身を見つめる様子、そして社会とのつながりを渇望する様子と変化していく様子に、引きずりこまれた。
自分は、何日にもおよぶ山行も、どこまでも続くようなヤブ漕ぎも、積雪期の本格的な山行も体験したことがありません。行ってみたいし、体験してみたいとは思うけれども、実際のところ体験したことがないわけです。
そんなでも、野村さんの紡いだ文章から伝えられる山行の様子から、北海道を南北に貫く山の険しさと行為そのものの魅力が伝わってきました。リスクがかなり高い行為と思います。ですから、それをだれかに勧めるわけではありませんが、野村さんの心の動きは、強固になった社会の中で日々生きている人びとの中で感じる違和感への答えのヒントを与えてくれているのではないかと感じました。
読み終わって、最初の数日は心の中に大きな氷と雪が混じり合った塊が落ちてきた気持ちでした。
しかし、数日が経ってみて、大きな氷と雪が混じり合った塊は、ほかの氷の塊とともに、融け去っていました。
そして、自分が以前から感じていた疑問と自分なりの答えに、少しだけ自信を持つことができました。それは、ひとつのモノゴトに答えと結果があっても、正解がないことなんて、ずっと昔から決まっていたし、本当はそんなこと、はるか昔から分かっていたということ。
野村さんの挑戦が探検なのか挑戦なのかはともかく、この「幸せ」を背負っては山が好きな人にはもちろんオススメできる1冊ですし、山に関心がない方でも、野村さんの心の動きから生きる支えの一つを得る機会となる一冊だと思います。