「秋の工人まつり」と三島町の生活工芸運動

行ってみたいと思いながら、新型コロナウイルス感染症の流行で2020年から3年にわたり中止になっていた「工人まつり」。ようやくこの秋、出店数を100に限った縮小とはいえ開催されることになり、ついに行くことができました。

工人まつりは、全国の工人こと「手しごと作家」さんが作品を持ち寄り、展示された作品を実際に手に取ったり、作家さんとお話をしながら購入することもできる、おまつりです。

出店数を限ったとはいえ、3年ぶりの開催ということもあり来場された方は、結構な人数だったと思います。会場が町内から少し離れたところにある森林公園には、近隣につくられた臨時駐車場との送迎バスがひっきりなしに走っていました。

この工人まつりは、手しごと作品好きにはよく知られたイベントです。

会場となる生活工芸館のある三島町をはじめ、奥会津はヤマブドウやミヤマカンスゲ、マタタビのツルや皮を編んでつくった「奥会津編み組細工」の技法を受け継いできたことで知られています。

奥会津地方は冬になると雪が深く、かつては除雪機器も発達していなかったことから、冬は冬にしかできないこと。それこそ手しごとに精を出し、春の訪れを待っていたのです。

どうして三島町では奥会津編み組細工が盛んとなったのでしょう。
これには、町で取り組んだ生活工芸運動があると言われています。昭和の高度経済成長が終わり、バブルへと向かう安定成長期のころ、三島町では「雪国の伝統的なものづくり文化を大切にし、後世に伝えていくことについて町を挙げて取り組む」生活工芸運動が始まりました。

手しごとを大切にするこの運動が工人まつりを生み、全国の手しごと作家とわたし達をつないでいるのです。

さて、縮小開催とはいえ、結構な数のテントが立ち並び、奥会津編み組細工はもちろん、漆塗りや木工細工、染め物、手しごとを支える道具など、さまざまな作品を手に取り、作家さんとお話しすることができて、とても楽しい時間を過ごすことができました。

なかでも気になったのが、長野県で活動される本間友幸さんの陶芸作品です。

独特のグラデーションを持った色と表面が特徴のぐい飲みです。

このぐい飲みから、春や夏の自然。特に山や空、それらを映す湖畔を感じて、思わず見とれてしまいました。この独特の色や粒状感は、特別につくった釉薬と焼きによるものだそうです。

富士山をモチーフにしたものもあり、そちらの青さにも惹かれたのですけれど、こちらの風合いがあまりにも独特で、まるで山を歩いているような、あるいは湖畔にたたずんでいるような気になってしまったのです。

さんざんお話しさせていただいて、さわらせていただいて、ひとつ頂戴してきました。

本間さんが「春」と呼んでいた風合いのものです。

逆さにすると、遠くに連なった山のよう。

また、反対ならば山が水に映り込んだようにも見えます。

美しさだけでなく、手ざわりも、心地良い。

内側は独特の風合い。

ぐい飲みだから窪んでいるはずなのですが、飛行機に乗って下をながめているよう。

せっかくの生活工芸品なのだから、使わなくては失礼です。
帰りに会津の地酒を買い求め、この日はぐい飲みを愛でることとします。

今回の地酒は、花春酒蔵のひやおろし。
紋様をあしらったラベルがきれいなお酒で、芳醇ながらもしつこすぎない香りと、後に残らない味に魅力を感じるお酒でした。

こうして焼き物の細部をながめているだけでも、多くの気づきがあっておもしろいのです。

すてきな作品との出会いを生んでくれた「工人まつり」を開催できるのも、三島町がはじめた生活工芸運動によるところと思います。

生活工芸運動がはじまったころ、三島町では三島町生活工芸運動憲章をつくったそうです。
とてもすてきな憲章なので、引用して紹介します。

三島町生活工芸運動憲章

一.家族や隣人が車座を組んで
二.身近な素材を用い
三.祖父の代から伝わる技術を活かし
四.生活の用から生まれるもの
五.偽りのない本当のもの
六.みんなの生活の中で使えるものを
七.山村に生きる喜びの表現として
八.真心を込めてつくり
九.それを実生活の中で活用し
十.自らの手で生活空間を構成する

三島町観光地域づくり情報サイト

この憲章ができたのは、自分が生まれて間もないときなのですが、はじめて読んだとき、今わたし達が直面している社会課題に通じるものを感じ、ハッとさせられました。

当時、手しごとに注目したのは、観光コンテンツとしての目的もあったのでしょう。

しかしながら、高度経済成長からバブルへと向かっていく社会的背景の中で、憲章に書かれていることに注目したのは、大きな価値を遺したと思います。

あのころ、変わっていくもの、失われていくものがあり、そんな中で遺さなくてはならないもの、受け継いでいかなければならないものに向き合って宣言した、そんな気持ちを感じました。

3年ぶりの開催にもかかわらず、手しごとを愛する人があんなにも集まったのは、とても良いことだなと思います。次回もぜひまた行きたいです。